防御率

筆者は小学校の時からバリバリ理系で、算数とか理科が大好物(!)だった。小学校の時から算数が嫌いになる人も多いが、筆者は幸いにしてつまづくことはなかった。つまづくポイントは大体決まっていて、その代表的なものが「割合」だろう。

割合とは、何かの量なり数値なりの全体を1とした時に、ある対象がどのくらいになるか、というものだ。パーセントでいうと、何かの全体を100とした時に、ある対象がどのくらいになるか、ということを表し「%」という記号を使う。全体を1とすると、半分は0.5であり、全体を100%とすると、半分は50%である。

割合は小学5年生で習う割には、かなり抽象的な概念のように思う。筆者がその当時どういう捉え方をしたかは覚えていないが、計算をするときに「全体を1」とした時の割合(例えば0.5)を、単に全体の量にかけてやれば、対象のものの量が機械的に求められることは便利だな、と思った覚えがある。

さて、野球で「防御率」という用語がある。ピッチャーの「9イニングの平均自責点」のことで、要は「このピッチャーが1試合平均何点取られたか」ということを表す数値である。この数値が小さいほど、ピッチャーとして優れていると評価される。例えば「防御率0.9」なんてのは、1試合平均で1点も取られていないということになるので、大変優秀な成績ということになる。逆に、1アウトとか2アウトしか取れないのにボロクソに打たれて大量失点すれば、防御率50とかもあり得る。過去には100を超えた記録もあったようだ。

防御率は英語で「earned run average」というらしい。いや、話は逆で、英語の「earned run average」を「防御率」と訳したものだろう。しかし、この「防御率」という用語、ちょっと違和感があると思わないだろうか?

そもそも「率」というのは、前述した割合とほぼ同じ意味で、何かの量全体を1とした時の、ある対象の量の比のことである。防御率の定義からすると「1試合に1点取られる」ことを全体としての基準としていることになる。例えば、防御率2というのは、その基準の2倍の値ということになる。

しかしここで疑問が湧く。野球において「1試合に1点取られる」ことに何か特別な意味があるだろうか? 何かそれを絶対的な基準とみることに意味があるだろうか?

野球では1試合で0点もあれば2点、3点、10点もある。つまり「1点」には何かそれを絶対的な基準とするような特段の意味はないのである。だから「防御率」という用語はちょっと違うんじゃないかと筆者は思うのである。元々の英語の用語を見てもわかるとおり、これはあくまで「与えた点数の平均」というような意味であり、どこにも「率」=「ratio」的な単語は入っていない。ぶっちゃけていうと「防御率」という用語は誤訳だと思うのだ。

しかも、「率」という割には、その数値が大きい場合は「防御できていない」ことを意味し、逆にその数値が小さい場合は「防御できている」ことを意味していて、本来の「率」のニュアンスとは反対になっている。

とはいえ、この「防御率」なる数値は、ピッチャーの成績を評価する上で感覚的にわかりやすい指標であることは間違いない…そう! 指標なのだ。「1試合に1点取られる」ことを基準にした何らかの「率」ではなく、単なる数値の大小で比較できる指標だと思えば何も問題ない。

そこで筆者は「防御率」に代わる用語を提案したい。それは、

防御指数

である。「指数」は「指標」と同じような意味で様々な分野で使われているから違和感もない。どうだろうか? でもこれだとやっぱり「防御指数が小さい方が優秀」となって指数の大小が反対の感じがするので、

与点指数

なんてのはどうだろうか? これなら英語の用語の意味に近いのではないだろうか?

令和元年5月21日 初出
令和元年10月15日 移設