筆者は「間違い探し」がなぜか得意である。仕事上の書類の誤植を見つけることは珍しくないが、雑誌なんかは誤植だらけだし、ちゃんとした出版社から出される書籍にも誤植はある。誤植がない・極めて少ないといわれる新聞や辞書にまで(!)誤植を発見したこともある。
これは、筆者がコンピュータ技術者として、ソフトウェア開発をしたり、仕様書を熟読したりする経験から身に付いたものだろう。プログラムのソースコードを眺めていると、ふと何か違和感のようなものを感じて、そこが「光って見える」のだ。
筆者が大学生のころだから1980年代後半の頃だったか、ある少年漫画誌の人気スポーツ漫画に
あーっと、ここでバク転だぁ!
というような表現があった。この時も単に誤植なのだろうと思った。しかし…
その後も様々なメディアで「バク転」という表現がちらほらと見られるようになった。こ、これはもしかして、みんな勘違いしている? そう、「後ろに」「転回する」から「バック転」なのだ。それがどうやらその語源(?)を知らない層が、聞き違いをしたのかなんなのかわからないが、なんとなく雰囲気で「バク転」という誤用をしだしたのだろう。既にあった「爆笑」や「爆睡」 などの「バク」に影響された可能性もありそうだ(これらも新しくできた言葉だが)。
今は平成が終わって令和の時代となったが、残念ながら「バク転」という表現は、あろうことかテレビ等のメジャーなメディアでも散見されるようになってしまった。それがさらに誤用を広める役割を負ってしまっている。筆者はもともとメディアなんぞは盲目的に信用することはしていないが、それにしてもひどい。ひど過ぎる。語源とか事の経緯とか、そういうものにそんなに無頓着になっているのだろうか。メディアの影響力がわかっているのだろうか。暗澹たる思いである。
ネットで「『バク転』は間違っていますよ、『バック転』ですよ」と指摘する人を見かけたことがあるが、それに対して「あ、そうなんですか? 勘違いしていました、今後は気を付けます」というような反応をする人がいればまだ救いはある。しかしそのような反応を示す者は残念ながらあまりいない。中には「どっちでもいいと思いまーすww」という安易な反応を示す者もいる。
はぁ、じゃあ車も「バク」すればよろしい。ひとりで「バクパッカー」でもするがよろしい。
筆者の言葉遣いもお手本になるようなものではないかもしれないが、自分への自戒の念も含めて「言葉はちゃんと本来の意味や語源を知って(できるだけ)正しく使う」ことを心掛けたいものだ。
令和元年5月17日 初出
令和元年5月20日 改訂
令和元年10月15日 移設